独り:番外編&Another Story


独り 番外編

 宇宙を彷徨う黒い船の中で、ひとりの男が頭を抱えていた。

『俺が白昼堂々とエロ本読み漁ってたのがそんなに嫌な訳?
お前もいつもコッソリ覗いてんじゃん』
12号は、任務を終え騒ぎになる前に星を去った後も…
あの、金髪に青いタトゥーの男の顔が忘れられない。

金髪の男は、自分を『フェイス』と呼んだ。
そう、勘違いした。

軍がバラバラになった後、
賊軍の元軍人が生き延びる術は多くはなかった。
そのスキルを生かし、裏の世界で活躍するのも手のひとつだ。

だが、自分に似たその男は…なんだったのだろう。
勘違いされるほどに似た男。
間違いなく、同時期に“量産”された生命体だろう。

しかしその男には名があった。


『フェイス』―――――。


その名が元からあったはずがない。
誰かが勝手に付けたのだろう。
だが、そいつは“名”を持っている…。

私は12号と呼ばれている。
機械的と言い切っても良いまでの腕の良い暗殺者として、
あちこちの星の要人に雇われる。
それを、不服に思った日などなかったはずだ…。

それが、一番の道だと思っていたはずだ。


『フェイス』。

奴は、何者なのだろうか?

12号は駄目モトで、コンピュータで『フェイス』とやらを調べた。
奴のデータは、いとも簡単に見つかった。

“退治屋カイザーのチームメイト”として
リブフリー社に正式に登録され、素性はともかく
表の世界で堂々と生きている…らしい。


「…………っ!」

12号は、訳もわからず、机を叩いた。
机にあったティーが、少し揺れた。

「それが、何だというのだ…?
私に何の関係がある!私は私だ。奴は奴。
…私は…何を考えている…!?」


羨ましい、のか?


ふと、思った。
「そんなはずは…ない」
彼は自分に言い聞かせるように、呟く。


『俺が白昼堂々とエロ本読み漁ってたのがそんなに嫌な訳?
お前もいつもコッソリ覗いてんじゃん』


金髪の男の言葉が、また聞こえる。



羨ましい…のか?
同期の者が、表の世界で生き…仲間まで持っているという事が?
そんな、ちんけなことが?



仲間意識や友情など、仕事の邪魔になるだけだ。
だから友人など必要ない。ずっとそう思ってきた。
しかし、同じ顔をした『フェイス』は…自分の真逆を生きている。
奴は、それに満足しているのだろうか?
それとも、そのうち“カイザー”とやらもうまく殺して
自分が“退治屋”になるつもりだろうか?

…わからない。



12号は、初めて抱くこの感情が何なのかわからなかった。
『フェイス』が何なのかもわからなかった。

初めて、“迷い”を感じた…。


ピピピ、という高い音で、緊急連絡の着信音が鳴る。
12号は画面を即座に切り替えた。

『貴様を呼び出したのは他でもない…
秘密裏に消して欲しい邪魔なムシケラがいるのだ。
そのムシケラの名は…… … …』

画面の中の依頼人は、いつも通り、
自分に都合の悪い人間の暗殺を依頼してきた。

「…了解した」
12号は答える。
『…信じているよ。頑張ってくれたまえ』
依頼人はそう言い残すと、通信を切る。

12号は船の行き先を決めた。
次なる仕事の場だ。


『フェイス』が何者なのかはわからない。
興味がないでもない。
だが、深く知ろうとすれば、自分が自分でいられなくなる気がした。


12号は今日も働く。
まるで、道具のように。
心のない、殺人機械のように。


Fin

      • -------------------------------------------------
バッドエンド的ですが、真の裏の世界の住人の彼にはピッタリの終わり方かと…。
フェイス2号君(今回は12号にしました)は完全にターミネーターと同じ扱いです。
きのえねさんの作品の行く先とは大分ズレてると思いますので、ご了承下さい。


BTドレスさん版「独り」用書き下ろし

BTドレスさん版「独り」用書き下ろし
※BTドレスさんが「独り」をコミカライズして下さった際、
2話の後書きでジャンクスと忍が自分の出番をせがんでいたので、
本当に追加してみました!(笑)


・3(ミーナパート)の前か、後
※前の場合は夜、後の場合は時間帯はいつでも不自然にならないと思います。



 カイザー達が複雑な思いで過ごすこの星に、
複雑な関係を持ったふたりも人知れず、降り立っていた。
ひとりは低金利の金貸しの広告につられ。
もうひとりは、この星の政治の裏で進む「計画」を
円滑に進めるために雇われたシノビとして。


 「トイチよりたちが悪いじゃねーかっ!」
バンダナをつけた長髪の男、ジャンクスは
薄暗い路地裏で、店の中に怒鳴りつけた後、サウスストリートを歩いていく。
「やっぱりアンドロメダに頼むか……?」
呟いたのち、
「いや、アンドロメダはダメだ……」
がっくりと肩を落とす。
彼女(?)から金を借りようとすると、
熱烈に求婚されることを思い出し、ジャンクスは借金を諦めた。


「働くかー…働くしかねぇかー……。短期で割のいいバイトはねぇかな……」
ぶつぶつ呟いていると、後ろからマイクを差し出される。
ジャンクスは慌てて振り返った。

視界に飛び込んできたのは、
まだ初々しい印象の黒のストレートのロングヘアの女記者と
銀河TVの女カメラマンだ。
キャスターの「報道」と書かれた腕章が輝いて見える。新人なのだろう。

「…………」
「…………」
しかし、記者は顔を真っ赤にして硬直しており、質問してこない。
緊張しているのだろうか?
「ご苦労さん。記者さんが、何の用?」
可愛いなと思ったジャンクスは、若い女記者の頬をつついてみた。
「……はっ! 申し訳ありません、私ったら。
 …大統領選挙が近づいて参りましたが、
 貴方はこの星の政治について、どうお考えですかっ!?」
ストレートヘア記者は、つつかれた頬を触りながら質問してくる。
目を背けているのは、ミスが恥ずかしかったからなのだろうか?
「すまん、俺は退治屋だ。旅行者と一緒で、詳しいことは知らん」
「はぁ……そうですか」
そうですか、と返答している割には、最初から納得しているような顔もしている。
この少女記者は何者だろうか。
……まぁ、そんなことはどうでもいい。
「お前、俺の知ってる子とどこか似――」
ジャンクスがいいかけたところで、カメラマンがジャンクスを豪快に蹴り飛ばす。

「セクハラ退散!!ほら、次行くよ次!」
「はいっ、それでは失礼しますっ!その…本当に失礼しましたっ!」
慌ただしい記者達は、南へと走っていった。

「夜遅くまで、大変だねぇ」
ジャンクスは蹴られた部分をさすりながらにやりと笑うと、北へと歩き出す。
次の星へ行くための、燃料費を稼ぐバイトを探すために。

※BTドレスさんはこの手の絵面が非常に面白いので
どんな風にどこを蹴ったかは敢えて指定しませんね(笑)。

***

 「あうぅ~、こんなところで会ってしまうなんて~!」
記者の姿に扮した忍が、走りながら顔を真っ赤にして呟く。
「任務中には何があるか分からないって教えたろ。
 もう油断しちゃダメだからね?」
女カメラマンは、忍の姉弟子、月影だった。



・4(最終話)の後のおまけシーンとして

 忍は退治屋の友人と会うときに来ている装束に着替えると、
長い髪を高い場所で結い、ポニーテールにする。
「ちょっと、そんな格好をしてどこ行くんだい?任務はもう終わったよ」
忍の後ろから音もなく現れ、止めるのは月影だ。
「どうせ、しばらくはこの星に缶詰です。退治屋の友人に会ってきます!」
「退治屋の…って、あのオヤジ!?ほんっと好きだねアンタ」
「大好きなんです!」
満面の笑みで、忍は船から下り、走って行く。
「あんなのが相手ってのはどうかと思うけど……青春するのは良きことかな。
 恋をしなよ、忍。恋の記憶はいずれ、くノ一の武器になる」
不敵な笑みを浮かべると、月影は船の中に戻っていった。
「素直なのが、あんたの良いところさ」


忍達の任務は、この星の「ふたりの」次期大統領候補の暗殺計画の片方の阻止だった。
どちらの計画を潰すかは、師に「己の目で見て決めろ」と告げられたため
自分たちで情報を集め、自分たちの判断で片方の計画を潰した。
決戦の夜、命のやりとりがあったことは説明するまでも無い。

どちらの候補にも既に暗殺者が放たれていたため
ふたりともが死んでしまえば、この星は混乱に陥ってしまう。
それを未然に防げというのが、師の命令だった。


 「ジャンクス殿~!」
「おわっ!?」
バイトチラシを抱え込んでいたジャンクスは、後ろから抱きつかれて
チラシを盛大にばらまいてしまった。
「さっき、ちらっと姿を見かけましたので!
 ジャンクス殿も、この星に缶詰なのですね。私とどこかに出かけませんかっ!
 せ、折角ですし!宇宙(そと)にも行けませんし!!」
「忍……」
ジャンクスは忍の顔を、しばらく、じーっと見つめる。
「ジャ、ジャ、ジャンクス殿!?」
忍の顔はどんどん赤くなっていく。
「人違いか……。そもそも、お前だったら今みたいにドーンと来るしな、ドーンと」
ケラケラ笑いながら、ジャンクスはばらまいてしまったチラシを指さす。
「あううううう!!申し訳ありません、申し訳ありません~!」
ジャンクスと一緒に、チラシを拾う忍。
「ちょーっと豪遊してみたらこの有様よ。ちゃんとバイトが見つかるといいんだが」
バンダナを締め直しながら、ジャンクスが言う。
「……あ、これなんてどうですか?
 バイトチラシに偽装している、リブフリーに依頼しない蟲退治の依頼ですよ。
 きっと危ない依頼ですね。だってこんなに報酬が高い」
「俺はリブフリーのブルーマスターの退治屋だっ!速攻で闇ルート勧めんな!!
 まったく、そういうところはしっかりシノビだな」
退治屋を名乗る者の7割がリブフリーの傘下、
残る3割はリブフリー社に所属しない野良の退治屋と言われている。

「あはは……やっぱりダメでしたか。これなら一緒にバイトできると思ったんですが」
「……ん?」
「いいえ、何でもありません」
忍は幸せそうな顔で、ジャンクスに次のバイトを勧める。
ジャンクスは、無事燃料費を稼ぐことができるのだろうか?

(おしまい)



・本当におまけ
ロゼッタがバーで仕事をしたら、すぐにお金は貯まったらしい…。

(おしまい)

※こんな感じで如何でしょう!?(笑)


2016.3.19.

  • 最終更新:2020-01-22 13:22:38

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